近くの人を幸せにする商売

 朝日新聞の夕刊にマザー・テレサについてのエピソードが載っていた。マザーについては皆さんご存知と思うが、インドのコスタリカで老人や孤児などの慈善施設や「死を待つ人の家」を開き救済に尽くし、その活動を世界に広げ、1979年にはノーベル平和賞も受けた人物だ。
 そのコルカタのマザーのもとを、90年にある高校3年生が訪れた。家は美容院を営んでおり、当時、家業を継ぐか、社会福祉の道に進むか、迷っていたそうだ。そうしてはるばる訪れた高校生に、マザーはこう言った。
 「豊かな国で育った皆さんは、お金をかけてインドに来ることができる。ありがたいけれど、周りの人にも目を向けて欲しい。近くの人に力を貸し、幸せにすることに意味があるのです」
そして高校生は美容師になる決意をし、そうなった。
最近では再び訪れたコルタカの孤児院で、散髪のボランティアをしたとのことである。
 このマザーの言葉に私は商売の心理を思う。商売とは単に売り買いのことだけではなく、自分のできることが人の力となることでもある。お互いがお互いを必要とすることで様々な商売が存在し、また成立するものだ。
日頃から思っていることだが、私も近所の魚屋や料理店、美容院などのおかげで助かっている。これらの店がなかったら、不便なことはもちろんだし、生活の楽しさも減ってしまうだろう。
 商売には近くの人に手を貸し周りの人を幸せにできる存在意義がある。
それを知ったかの高校生は、今どんな美容師になっているのだろうか。そんな商人で世の中が満たされたら、どんな社会だろうか。
(9/19 日経流通 招客招福より)(21196)